★PDF版
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J A P O S
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日本公開天文台協会回報
JAPOS : Japan Public Observatory Society Circular
Number 2
2007.02.01

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観測は最高のコミュニケーションツール
                                       早水勉(せんだい宇宙館)

周知の通り、業務として、普及を目的として、各地の公開天文台では「天体観測」が行われていま
す。最初に注釈したいがここでいう「観測」とは、文字どおり「天体を観て」なんらかの「物理量
を測る」ことを指します。
ここでは、私も参加して普及にも協力している「小惑星による恒星食」の最近の成果と、傾向に
ついてご紹介します。(蛇足ながら、当館は観光目的の天文施設ですから、私の行っている星食観測
の普及活動は、施設の業務として行っているものではなく、あくまで手の空いた時間に行うサービ
スであります。)

世界初! 掩蔽観測された小惑星の衛星
恒星食のおける日本アマチュアの実績は数多く、世界で最も盛んな国と述べて過言ではありませ
ん。2006 年11 月8 日04 時50 分(日本時間)頃、関東地方から東北地方の広域で、小惑星カリオペ
(22 Kalliope)とその衛星リヌス(Linus) による9.1 等星(TYC 1886-01206-1)の食が観測されまし
た。小惑星の衛星による恒星食の確実な記録はこれまで例がなく、今回の観測成功は、世界的にも
史上初となる快挙でした(※1)。(図1)は寄せられた観測から浮かび上がった、小惑星とその衛星
の姿です。
この現象は、衛星の有無に関わらず、掩蔽帯が良好で恒星も明るいために2006 年最高の観測条件
として注目されていました。当初は「衛星もあるけど、引っかかれば儲け物」といった雰囲気でし
た。なぜなら、軌道半径は1,000km もある一方、衛星の直径は40km に満たないと考えられていた
からです。ところが今回は、現象の前日にフランスのJ.Lecacheux 氏から送られてきた一本のメー
ルによって様相が一変します。それはなんとIMCCE(※2)のJ.Berthier 博士によって計算された、
衛星リヌスの掩蔽帯予報でした。約350km の誤差を見込みものの、これまで何処を通るかさえ分か
らなかった衛星の影が、東京付近を通過しているのですから驚きです。それから大慌てでJOIN(※
3),JAPOS,天文各誌に情報を配布し、現象時刻を待ちました。その結果、カリオペ本体で8地点,
衛星リヌスでも8地点という歴史的な快挙が誕生したのでした。


(図1)恒星食から浮かび上がった小惑星カリオペと衛星リヌス

これらの観測結果は、その後まとめてIOTA(※4) ,IMCCE などのプロの専門機関に送られており、
今後の研究に活かされることでしょう。

恒星食観測の分野は拡大中
市民レベルの観測成果が研究に活かされるのですから、観測者にとっても大きな喜びとなります。
星食観測の分野について言えば、観測者には教育関係者や地域の天文コミュニティーの指導的な立
場の方々が多く、観測を通じて天文文化の普及に大きく寄与しています。アマチュア天文家にとっ
て、観測こそは最高のコミュニケーションツールです。遠く離れた愛好家達が、「その瞬間に同じ星」
を見守っていることは、想像するだけでも楽しいことです。
(図2)は過去の「小惑星による恒星食の成功した現象数」の推移を、(図3)は、「成功観測の
報告数」の推移を示します。これらから、この観測分野は2000 年頃から急激に成長していること
が分かります。(図3)を見ると2003 年以降は報告数が伸び悩んでいるようにも感じますが、実際
には2003 年と2004 年は1 現象で20 件以上の報告を集めた大ヒットがあったためであり、実力と
しては着実な伸びとなっています。日本は、狭い国土に多数のアマチュア観測者が存在しているた
めに、小さな小惑星にも細目の網をかける効果があり、日本向きの観測であることもこれまでの成
功の理由でしょう。
各種の天文普及誌もこのような背景をよくご存知で、毎月のように恒星食を取り上げていますの
で、今後もますます拡大していくことが期待できます。


(図2)


(図3)

3.普及活動の協力者を求む
以上のよう、当館で行っている星食観測を通じての普及活動は、随分と拡大してきています。反面
このことが災いして、観光天文施設の一職員が余力の中でサービスするには負荷が大きくなりすぎ
てきているのも事実です。できればJAPOS 会員の中から、この普及活動に協力をいただける方も
しくは施設が登場されることを希望しております。

(※1) 国立天文台アストロトピックス(No.256)参照
(※2) IMCCE: Institut de Mecanique Celeste et de Calcul des Ephemerides :日本語訳は知
    りませんが、「天体力学研究所」といった感じでしょう
(※3) JOIN:Japan Occultation Information Network
(※4) IOTA:The International Occultation Timing Association:国際掩蔽観測者協会


天究館の変光星観測普及活動
                             ダイニックアストロパーク天究館 高橋進
公開天文台の役割としてはいろいろな事があります。一般の皆さんを対象とした天文普及が基本
ではありますが、天究館では変光星観測者の育成にも力を入れて行なっています。
変光星の世界では対象となる天体は無数に(最新の変光星総合カタログと追加されたネームリス
トでは40,200 個)あります。ところが実際にそうした変光星の観測をつねに行なっている人とい
うと国内ではせいぜい50 人ほどです。そのため観測すべきなのに観測できていない星は無数にあ
ります。圧倒的に観測者不足なのが変光星の世界です。そのため新しい観測者の発掘・育成は急務の
課題と言えます。
ただ、変光星観測をしたことがない人にとって、観望することと観測することの間にはとても高
いハードルがあります。比較星と見比べて明るさを目測してみてくださいと言っても、果たして天
文学的に有効な精度で目測できるかなかなか自信がもてません。とりあえず目測できたとしても、
その精度に自信がもてないと長続きしません。そんな人たちに安心して観測をしてもらい、将来の
変光星観測を背負って立ってもらう人を育てていこうというのが変光星観測普及キャンペーン「ク
リスマスにミラを見ようキャンペーン」です。略称「ミラキャンペーン」とも言い、日本変光星研
究会主催で天究館が事務局として実務はすべて担当しています。
ミラキャンペーンでは毎年11 月1日から12 月31 日をキャンペーン期間としてミラの光度目測
を呼びかけています。天文誌や各種のメーリングリストやホームページを通じて広報をおこない、
興味を持ってもらえる人には観測資料「ミラ観測ハンドブック」を送付します。ハンドブックには
変光星ミラについての説明、変光の理由や発見された歴史、観測方法、星図などが記されています。
これによって初めて変光星観測をするという人でも、ミラについて理解し観測ができます。観測し
た結果はできるだけすみやかに事務局に報告してもらいます。事務局では報告されたデータを集計
し、光度曲線を描きます。そして報告をいただいた観測者に、その人の観測だけを赤く印しした光
度曲線をはがきで送ります。これによって自分の観測がほかの観測者の値と異なっていないかを確
認できるわけです。たいていの場合は光度曲線の中におさまります。ただたまにとんでもなく違っ
た等級の報告もあります。そんな場合は誤差が発生した理由を考えてお知らせします。原因の多く
は星間違いや目測後に等級を出すときの計算ミスなどですが、最近はデジタルカメラの使用で、波
長域が異なり光度曲線からずれた観測報告をいただくこともあります。
観測報告とそれに対する光度曲線の返信はがきのやりとりでキャンペーンは進められていきます
が、毎回30~40 名の皆さんから観測報告をいただきます。そのうち1割くらいが初めて変光星観
測をする方たちです。初めて観測される方からの報告は「これで大丈夫だろうか?」というドキド
キと、観測という世界に足を踏み入れたワクワク感が入り混じっていて受け取る側もつい嬉しくな
ってくる報告です。それが何回か目測されるうちに変光星観測に魅了され、さらに熱心に観測され
ていきます。キャンペーンが終わると皆さんの観測をまとめた報告書「みんなで作った光度曲線~
クリスマスにミラを見ようキャンペーン報告書」を作成するのですが、その中に参加された皆さん
の感想を書いていただいています。その中には変光星観測をしながら感じた事、嬉しかった事など
がつづられていて読んでいて本当にうれしくなってきます。
このミラキャンペーンも昨年末で9年目になりました。このキャンペーンによって変光星観測を
始めて、今では日本の変光星観測の中心になって観測しておられる方もおられます。そしてこのキ
ャンペーンを通じて変光星観測者の輪も広がり、単なる天体観測だけではなく、変光星観測という
ひとつの文化が形作られてきているようにも感じています。今後もそうした観測者と文化の育成を
目指して、公開天文台の役割のひとつとしてさらに活動を進めていきたいと考えています。もし皆
さんのお近くに変光星に興味のある方がおられたらぜひご一報ください。変光星の魅力をたっぷり
と楽しんでいただきたいと思っています。


テキスト ボックス: ミラキャンペーン2006で33名の参加によって作成された光度曲線



                  ★情報BOX
                教育普及系の会合情報(2007 年2 月から)
                            HAMANE Toshihiko (Gunma Astronomical Observatory)
・会議「星空案内人資格認定制度の完成へむけて」(@山形)・・・2007. 2/5(月)
  関連HP: http://astr-www.kj.yamagata-u.ac.jp/shoten/

・第37回彗星会議(@八海山)・・・2007. 4/7(土)-8(日)
  関連HP: http:
//homepage3.nifty.com/cometsm/appl_form37suisei/appl_form37suisei.html

・PAONET 総会(@三鷹)・・・2007. 5/22(火)-23(水)
  関連HP: http://www.nao.ac.jp/paonet/

・全国の天体観測施設の会(日本公開天文台協会総会)
   (@美星)・・・2007. 6/12(火)-14(木)
  関連HP: http://www.nayoro-startv.jp/japos/index.htm

・GHOU(Global Hands-on Universe)2007(@三鷹)・・・2007. 7/13(金)-18(水)
  関連HP: http://handsonuniverse.org/international/ (英語)
  http://www.jahou.org/

・第21回天文教育研究会(@磐梯熱海温泉)・・・2007. 8/5(土)-7(火)
  関連HP: http://www.tenkyo.net/
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原稿募集
日本公開天文台協会回報第4号の原稿を募集します。次回発行は、4 月下旬を考えています。原
稿の締め切りは4 月20 日(金)とさせていただきます。奮ってご投稿くださいますようお願いいた
します。
尚、会報の発行、原稿の締め切りの日時等は、今後変更されることがあります。その際はJAPOS
ML 等でご連絡させていただきます。

イベント情報募集

会員の皆様が所属している天文台、施設、団体等のイベント情報を募集します。回報4 号に掲載
しますので、GW から3~4ヶ月間のイベントが目安になります。(船)
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